本朝食鑑のなかの葡萄酒

本朝食鑑序(国立国会図書館デジタルコレクションより転載。)
本朝食鑑序(国立国会図書館デジタルコレクションより転載。)

本朝食鑑 (1695、元禄8年刊)、人見必大著

江戸期の本草書の「本朝食鑑」 のなかに葡萄酒の記述があったのですこし引用してみます。本草学は中国、および東アジアで発達した薬物についての学問をいい、動植物や鉱物について幅広く採集しその名前の由来や特徴、医薬効果についての検証が様々な書物で蓄積されています。明の李時珍による「本草綱目」が有名で、中国と日本では動植物の分布が一部異なるため日本の食物全般についてあらたに検証してまとめたものが人見必大の「本朝食鑑」。ほかにも貝原益軒の「大和本草」(1709、宝永7年)、小野蘭山の「本草綱目啓蒙」(1803、享和3年)などがあり、のちの博物学と密接な結びつきがあります。

その本朝食鑑 巻之二 穀部之二 造醸類十五にて「酒」の項目は、味噌、垂れ味噌、納豆、餅、粽、飴、麹、醤油、酢のあとにあります。先に【釈名】で「諸白(もろはく)」【集解】、【気味】、【発明】といまで言う日本酒の説明をし、薬酒のひとつとして「葡萄酒」が出てきます。

簡単に作り方が書いているので引用します。

本朝食鑑 巻之二 穀部之二 造醸類十五 酒(国立国会図書館デジタルコレクションより転載。)
本朝食鑑 巻之二 穀部之二 造醸類十五 酒

葡萄酒

腰腎を緩め、肺胃を潤す。造法は、葡萄の能く熟して紫色になったものを、皮を去り、滓と皮とを強く漉して磁器に合わせて盛り、静かな処に一晩置き、翌日再び漉して汁を取る。両日の濃い汁一升を炭火で二沸ほど煎じ、地に放置して冷めるのを待ち、次いで三年の諸拍酒一升・氷糖の粉末百銭を加えて拌匀(かきまぜ)、陶甕(かめ)に収蔵て口を封じておくと、十五日余りを経て醸成する。あるいは一両年を経たものも尚佳い。年を経たものは濃紫も蜜のようで、味は阿蘭陀(オランダ)の知牟多(チムタ)に似ている。世間では、これを称賞している。大抵(いったい)この酒を造る葡萄の種としては、蘡薁(えびづる)が一番よい。つまりは山葡萄である。俗に黒葡萄というものも造酒に佳い。(平凡社東洋文庫 本朝食鑑 、島田勇雄訳より)

阿蘭陀(オランダ)の知牟多(チムタ)は、オランダ経由のポルトガル、スペインの当時の「ティンタ」の事かと。あと総称なので甘かった可能性もあります。

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