醤油と煎り酒とのあいだ

「煎り酒」は、室町時代頃から江戸中期くらいまで、垂れ味噌、煮貫などとともに醤油が広まるまで使われていた調味料のひとつで、日本酒1合に梅干し1個程度、鰹節を入れて半量くらいまで煮詰めたシンプルなものです。
塩、醤油、みりんを入れるレシピもあります。

何度か自分で作ってみて感じたのは、手本になるようなもともとの「味」がよくわかならいということで、
日本酒にしても、梅干しにしても、鰹節にしても、当時と今ではかなり違うものになっているのでは無いかと。
食文化の難しさは、エンテツさんがいつもいうように、
食べれば無くなると言うことで、実際のところがよくわからないことが多いです。文書からだけではわからない。連続性もありますが、断絶もある。

最初、通常の速醸酛の日本酒で作ってみたんですが、どうも味が決まらず、
ためしに生酛で作ってみるとどうもこちらの方がしっくりと味がまとまるようで、
それ以来、山廃か生酛で作るようになりました。鰹節は生臭さが気になるので、使わずに、昆布を入れて煮詰めるようにしています。

江原恵さんの、「江戸料理史・考」や、「料理物語・考」を読むと、味噌すましなど実際に江戸期の料理を何度も試作して考えているんだなぁということがよくわかります。昔ながらなどとよく言われますが冷静に考えると食文化は変遷してきて今にいたるので基準となる特定の時期があるわけもなく。伝統的なとか昔ながらの料理といってる方々の言説もよく読むと、実際には物流網の発達と冷蔵・冷凍技術の進歩や衛生面や微生物に関する知識の獲得などをベースにした近代化の恩恵をうけて初めて可能になるものが多く、違和感を覚えます。そもそも、塩や醤油、酒、味噌、梅干し、鰹節などの製法や味自体が変わっているはずです。江原さんは自身も料理人と言うこともあり、味覚の変化の歴史を丁寧に追っているので、こんにち当たり前に思っているモノがそうでなかったりするのを著作を通じて教えてもらえるのが面白いです。食を歴史として重層的に眺める視点は大切だと思う。
醤油と煎り酒とのあいだにいろんなものを見ておられたんだなぁと。

・「江戸料理史・考―日本料理草創期」、おそらくは時期をわけて何冊かに分けて執筆を考えてそのはじめとして出版された本

・「料理物語・考―江戸の味今昔」、入手できる江原さんの本ではこれが最後の出版くらいではと思います。江戸初期の料理本「料理物語」について。料理物語は有職故実から離れて素材、調理法について現実的に書かれたという意味では最初の料理本かもしれません。

【上記はかなり以前に書いた文章をまとめて加筆訂正しました】