
香りの表象について
ワインや料理の香りを言葉にしようとするたびに、うまく捕まえられないもどかしさがあります。この記事では、香りを「表す」という営みそのものを、二回に分けて考えてみます。
第1回は、香りを写し取るためのやり方を、古いものから新しいものへ並べました。ワインのアロマホイールに始まり、軸ごとに強さを測るプロファイル法、効いている分子を選び出す計測、香りを空間の一点として置く知覚の地図、分子の構造から座標を学ぶ機械学習の地図、そして脳のなかを走る一本の道筋まで。

通してみると、表象が鼻と脳の実際の働きに近づくほど、一目で見渡せる平易さからは遠ざかっていく、という取引が見えてきます。地球儀を平らな紙に写せばどこかが必ず歪むように、香りのどの表現も、ある面を平らに保ち別の面を歪めている。問うべきは「どれが正しいか」ではなく「どの投影が何を残し、何をこぼすか」なのではないか——そんな見立てにたどり着きます。
結びでは、「土地の味(テロワール)」を、ある場所の写しとしてではなく、人と非人間と環境の絡まりを平らに保った〈たどる線〉として捉え直すところへ進みます。
第2回は「言葉では言い表せないもの」を予定しています。
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